2013年5月25日土曜日

直接的と間接的

アレクサンダー・テクニックは望みや問題に対して<間接的に>働きかけます。
そして見事にこれらを望ましい方向へ導く助けとなります。

わたしは今、この<間接的>であることに大変関心があります。

演技の勉強をなさった人ならば、感情を表出させたいと望んだときに
感情そのものに直接働きかけても何も出てこず、頑張れば頑張るほどその感情があるふりをしたわざとらしい演技にしかならないことはご存知かと思います。

その上で私の場合は役の意図をクリアにしてそのための行動を的確に重ねることで、結果的に自ずと感情が出てくると言った手法を採用しています。
そもそも私は感情を表現することを演技の目的にはしません。なぜならそういう望みを持った役は稀だからです。
しかし、どうしても演出が要求してくる時もありますので、そういう場合は仕方なくそのように間接的にアプローチをします。
…皆さんはどうされてますでしょうか?

演技の練習や実演をしていると、望みに対して直接的に働きかけるとうまくいかず、大抵その直接的に働きかけるのをやめると何かが働きだし好い結果が得られることが多々あります。

最近のわたしは「間接的であることこそが望みを叶えるコツなのではないか」とさえ思います。直接的にはいくら働きかけても、たまにいいところまでいくことはあっても、決して望みにはたどり着きません…。

興味深い現象です。

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さて、そこでアレクサンダーに戻りますが
これぞまさに望みに対して直接的に働きかけるのをやめて
ひとまず、自らの頭と脊椎の自由な関係性に着目し、それを持って再びアクションする
という大変ユニークな<間接的>アプローチなのです。

すぐに直接的に望みにたどり着こうとすることをエンドゲイニング(…目的達成至上主義とでもいいましょうか)と多少否定的に表現され、あくまでも頭と脊椎の関係に戻ってから、建設的に然るべき手順を踏むことを学習していくのが、アレクサンダーテクニックのレッスンです。

創始者であるF.M.アレクサンダーは自分が声のトラブルに会ったとき、自分が「声を出そう」と声を出すことに直接的に働きかけたときに、自分が頭を脊椎に対して後ろ下の方向へ押し下げていることを発見しました。そして、それが自身の声のトラブルを引き起こしていたのです。

そこで彼は声を出すときに「声を出そう」とすることを抑制し、「頭が脊椎の上で自由であるよう」そのことだけを何度も何度も自分に方向性を与え続けることで、声のトラブルから脱出したのです。

私たちはテレビでも舞台でもレッスンにおいても、俳優さんの演技を観察してみると、先の「感情を表出させよう」と俳優が思うや否や、頭を押し下げて首を固めているのを見てとることができます。

すなわち、建設的に然るべき手順を踏まずに結果に先走ると、首が固まり、先にお話したプライマリーコントロール…自分の天才を発揮する蛇口が閉じられてしまうのです。

逆に、意図をクリアにしてアクションに専心している俳優は、少なくとも感情という結果に向かってしまってる俳優よりは首が自由で頭が動けているのを見て取ることができます。

あくまでもこれは一例ですが、このような視点からもアレクサンダーテクニックの原理を演技に活用していく可能性はたくさんあると思います。

アレクサンダー・テクニックは決して俳優が望む演技プランを変えるようなことはしません。俳優がアレクサンダー・テクニックによって自分がやりたい演技を邪魔されることは決してありません。その演技プランをどのようにすればよりうまく達成させることができるかを助けてくれます。

(もちろん、アレクサンダーを使って稽古してみて俳優が自分でプランを変更したくなったら、それはもちろん自由ですし、しばしばあることです。もちろん、その新しい演技プランにもアレクサンダー・テクニックは有効に機能することでしょう)

このことはアレクサンダー・テクニックが、俳優の演技に「直接的」に関わるものでなく、「間接的」に関わるものだからなのかもしれません。

今度は、ここから発展して「部分的」と「全体的」という観点から、演技とアレクサンダー・テクニックを考えてみたいと思います。

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